「撒くな。振りかぶれ」
行事に全く縁がない家庭で育ったもので、今日が節分ということをTwitterのタイムラインを見て知りました。
20歳のとき、一度だけ豆撒きをしたことがあります。
5年前の今日、アルバイトが終わった午前1時に「行くぞ。」という先輩たちに連れられ車に乗り込みました。
7人を乗せた車のハンドルを握るのは、0.1トンもの肉体と十何年付き合い続けるツーさん。
当時免許も持っていなかった私は、彼をずっと乗せて走るなんて、車ってすごく丈夫なんだなあーといつも思っていました。
ツーさんは愛嬌があって整った顔つきをしているとても優しい男性なのですが、部屋の壁にあまり趣味がいいとは言えないAVをセンス悪く飾っていることと、洗剤の有無を確かめたくなるような薄汚れたTシャツをいつも着ているおかげで、全く女性にモテていませんでした。
しかし私たち後輩はそれでも、どれほど目を凝らそうと彼が山下清にしか見えなくとも、意中の女の子に告白をして「ちょっとデカい。」と返されようとも、
「まーた女の子に振られちったよー」と笑ってドライブに連れて行ってくれるツーさんが大好きでした。
さて、アルバイト先を出てからありったけのコンビニをまわって豆を買い占めた私たち7人は、豆撒きに相応しい場所を慎重に話し合ってから、目的地へ意気揚々と向かいました。
私はあまりの寒さに車中での見学を何度も申し入れましたが全く取り合ってもらえず、諦めてパーカーのポケットに豆の入った袋を3つ突っ込んで車を降りました。
男性の先輩4人がルールを説明している間、ひたすら寒さに凍える私と、彼氏と電話する2個下の後輩夏希、そして豆をボリボリと食べ続ける一番年下の後輩ちび。
6人「食うな」
ルールもよく分からないまま始まりましたが、かけ声と共にみな散り散りに走り出します。
男の先輩たちはいつも本当に優しいのですが、このときばかりはまさしく鬼でした。
軽く野球グラウンド3個分はありそうな、灯り一つないだだっ広い野原の各地で聞こえる悲鳴。
私はただただ、生まれて初めての豆撒きに戸惑っていました。
節分ってこういう行事なん、、、?
寒さと悲鳴に戸惑いながら立ちすくんでいたとき、近くで上がった叫び声に反射的に顔を向けると、ちびが至近距離でツーさんから恐ろしいほどの豆の嵐を受けていました。
「いっったーーいーーー!!!!やめてーーー!!!!ツーさんやめてえええ!!!!」
本気で痛がっているちびと、暗闇にうっすらと浮かぶ、全身を揺らしながら腕を振り続ける0.1トンの巨漢。
なんておぞましい。
おちび可哀想に、、と目を凝らしてさらによく見てみると、なんとちびは全身に豆を浴びている間ずっと、手に持っている袋から豆を口に運び続けていました。
あいつまだ食べよる、、、!
そんなお腹空いたんか、、と、助けに向かおうとした正義感が一瞬で消え去った私は、やられる前にやらねば。と覚悟を決めて暗闇へと走り出し、その後6人と一進一退の激戦を繰り広げました。
極寒の寒空の下、真夜中の3時まで本気で豆を投げ続けたあの夜は、間違いなく青春でした。
帰りの車中、息を整えながら全員で
「もう二度としない。」と固く誓い合ってから今日に至るまで、私は豆撒きをしていません。
これからもきっとしない。